聖女のいない国に、祝福は訪れない
(なんだか、ドキドキする……)

 経験したことのない感情を胸に抱いた彼女は、気づいていない。
 それこそが恋する気持ちだと言うことに。

「……はい」

 セドリックは名残惜しそうにフリジアの髪を梳くと、彼女の身体を離して部屋を出ていった。

(陛下が、私に好意を抱いてくださった……)

 フリジアは誰も見ていないのをいいことに、行儀悪くゴロゴロとベッドの上を転がる。
 先程までは妹のせいで最悪な気分だったが、今は彼のおかげで晴れやかな気分になった。

(私は陛下のことを、どう思っているのだろう……)

 喜んでいるのだから当然、フェドクガのように嫌悪感を抱いているわけではない。

「フリジア様」
「は、はい……!」

 フリジアがぼんやりと答えを導き出そうと画策していれば、女性に名を呼ばれた彼女は飛び跳ねるほど驚いた。

(令嬢らしくない場面を、見られてしまった……)

 先程とは異なる理由で顔を真っ赤にすれば、聖女に近寄った侍女は手に持っていた白い布をフリジアの身体へ掛けてくれる。

「シーツを交換いたします」
「あ、ありがとう。セヌ……」

 侍女はセドリックと狼の水気を拭き取ったシーツを手に取ると、頭を下げて戻っていく。

(セヌに聞けばよかった……)

 シーツに包まったフリジアは、段々と瞼が重くなっていくのを感じる。

(どうしても答えが出なかった時だけ、頼ればいい……)

 彼女が答えへ気づくには、まだまだ時間が掛かりそうだ。
 フリジアは意識を無理に保っている必要はないと考え、再び夢の国へと旅立った。
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