聖女のいない国に、祝福は訪れない
「だってぇ。仕方ないじゃないですかぁ~」
「私の思い通りに動かぬ女など、聖女を騙る資格すらない!」

 フェドクガは鍵の掛かった宝箱を解錠して縄やロープを取り出すと、ニセラを捕らえようと迫りくる。
 しかし彼女も、なんの対策もしないまま彼と対峙したわけではなかった。

「ニセラ、妊娠しちゃったんですから!」
「な……。誰の子だ!」
「もちろん! フェドクガの子ですよぅ!」

 ニセラは愛おしそうに笑顔で腹部を撫で、縄とロープをフェドクガが床へ落とした瞬間に勝利を確信する。

(こんなの、嘘に決まってるじゃないですかぁ~)

 いずれ国を担う皇太子としての教育よりも、賞賛を得るため聖女を酷使する時間を大切にしてきたくらいだ。
 彼には人としての常識が足りなかった。

(手を繋いだくらいで妊娠できたら、セドリックだって諦めずに済んだじゃないですかぁ)

 彼女は彼の弱みに付け入り、あっと言う間に絡め取る。
 ニセラの策略にかかったフェドクガは床に膝をつくと、涙を流しながら歓喜した。
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