聖女のいない国に、祝福は訪れない
聖女の憎しみ
 真の聖女ニセラ・リエルルがフェドクガ・アーデンフォルトの子を孕んだと言う話は、瞬く間に広まった。

『聖女と愛し合う男を引き裂く者には、神の裁きが下るだろう』

 王城の書庫で聖女に関する書籍を読み耽っていたフリジアは、その一節を指先でなぞると深いため息を溢す。

(セドリックの誘惑に失敗したから、フェドクガに言い寄ったのか……)

 ニセラはフェドクガの恐ろしさを知らないからこそ、無邪気にも彼を自身の都合がいい操り人形に仕立て上げようとしているのだ。

(……馬鹿な子……)

 どれほど性格が最悪だったとしても、ニセラとフリジアは血を分けた双子の姉妹。
 妹が転落していく姿を横目にして、黙っていられるほど非情ではないはずなのに……。

(おかしい……)

 なぜか彼女の心には、妹を助けたいと言う気持ちが一ミリも存在していなかった。

 フリジアにとってはフェドクガから自由を奪われるよりも、自分こそが偽聖女だと騙られた方が、強いストレスを感じることであったのかもしれない。

 彼女はパタンと本を閉じるとそれを本棚へ戻し、寝室に戻った。

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