聖女のいない国に、祝福は訪れない
(私に声を掛けてくれる人は、助けを求める民と王しかいなかったのに……)

 ゴシゴシと掌で涙を拭ったフリジアの手首を、女性がはっとした様子で掴む。
 そこには痛々しいミミズ腫れの跡が残っていて――。

「い……っ」

 咄嗟に強い力で刺激されたせいか。
 聖女の表情が苦悶に歪む。

「も、申し訳ございません!」

 女性はパッと手を離すが、謝罪をして痛みが消えれば苦労はしない。
 右手で掴まれた左手首を擦ったフリジアは、頭を下げた女性から視線を逸した。

「何事だ」
「陛下。それが……」

 すると、すぐさま騒ぎを聞きつけたセドリックが顔を出す。
 彼が女性に問い掛けた低い声を耳にしたフリジアは、思わずそちらのほうへ目を向ける。

「聖女様の手首に、痣があるのです」
「見せてみろ」

 険しい表情のセドリックから促された彼女は、手首を庇う手に力を込めた。

(彼はこの痣を目にしたら、もっと機嫌が悪くなるだろう)

 フリジアはじっと手首の痣を反対の手で隠したまま、だんまりを決め込んでいたが――。
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