聖女のいない国に、祝福は訪れない
「俺は君に深い傷を負わせたあの男を、生かしておくつもりはない」

 フリジアもフェドクガを野放しにしておけないとは思うが、荒廃した地でしぶとく生き残れるほど彼だって頑丈ではないだろう。

「あのような性根の腐った方を屠るために、陛下が直接手を下す必要があるのでしょうか……」
「俺がやらねば、誰がやると言うんだ」

 聖女の加護が消えた今。
 セドリックが立ち上がらなくとも、他の国と潰し合う姿を安全な場所から見物しているのも悪くはない選択肢のはずだ。

「これは私の問題です……。ご迷惑をお掛けするわけにはいきません……」
「俺は迷惑などとは、思っていない」

 フリジアはすぐに気づいた。
 一人ぼっちだった聖女に、セドリックが手を差し伸べてくれたのだと。

「今までは一人でなんでも抱え込むしかなかったが、今は俺がそばにいる」
「はい……。それはとても、ありがたいことだと感じています……」
「ならば。もっと、頼ってくれないか」

 彼の手を取れば、フリジアはなんの苦労もせずに幸福を手に入れられるだろう。
 だが、それでは彼女の気は収まらない。
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