聖女のいない国に、祝福は訪れない
(心が揺らぐ。怯えている。私は殿下に好かれたい。嫌われたくなかった)

 フリジアは徐に視線を外し、窓の外を見た。
 激しい雨に身体を打たれて震えている狐や狼達が、不安そうにこちらを覗き込んでいる。
 彼が彼女に危害を加えるようであれば、ガラスを破壊しセドリックに襲いかかるつもりだろう。

「そう、心配するな。彼らが君を護るために俺を襲うのであれば、斬り伏せることはしない」
「……陛下……」
「堅苦しい呼び方は、やめてくれ。今は二人きりだ」

 彼に促されたフリジアは、その名を自分が紡いでもいいのかと迷っていた。
 彼女はセドリックの隣に立てるほど、清廉潔白な聖女ではなかったからだ。

(求められるうちが花……)

 自己肯定感の低いフリジアは考えを改め、彼が望むならば、と。
 か細い声で名を呼ぶ。

「――セドリック様……」

 すると彼は優しく微笑み、視線を窓から移す。

(私が迷い続ければ、たくさんの人々が苦しむ)

 フリジアが穏やかな気持ちで暮らし続けることこそが、民のためになるのならばと覚悟を決めた。
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