聖女のいない国に、祝福は訪れない
「俺の前で、取り繕う必要はない」
「セドリック様……」
「あの男は、清らかな聖女が強い嫌悪感を抱くほど、君に恨まれて当然のことをした」
「これはすべて……。私が陛下の気を引くためについた、嘘かもしれません……」

 彼のひんやりとした手のぬくもりを感じたからか。
 全てを焼き尽くさんばかりに荒れ狂っていたはずの炎が、ゆっくりと火の勢いを薄れさせていく。

「君はいつも、俺を惑わす嘘を平気でつくつく女だと思われたいようだが――」

 彼女の復讐心を引きずり出したのは彼だったが、明らかに気落ちした様子を見せた聖女を勇気づけたのもまた、セドリックだった。

「もしも君が妹のような嘘つきであれば、両手脚につけられた拘束具の痣が刻み込まれることはなかっただろうな」

 彼はフリジアの手首に残る痛々しい傷跡をなぞる。
 塗り薬のおかげでだいぶよくなったものの、元の状態に戻るまでには長い時間がかかるだろう。

(妹が本当に真の聖女であれば、もっとうまく立ち回っていたかもしれない……)

 見たくない現実を突き付けられたフリジアは、思わず視線を落として拳を握りしめる手に力を込めた。
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