聖女のいない国に、祝福は訪れない
 一卵性双生児ではなく二卵性双生児として生まれたおかげで、聖女の力がニセラへ宿ることなくフリジアが独占でき――顔が似ていなかったからこそ。
 本人に成り代わることができなかったのは、彼女にとって幸いだが――。

『どうして私が聖女なの?』

 フリジアは妹ではなく自身が聖女として任命された時のことを思い出し、静かに涙を流す。

 聖女になんてなりたくなかった。

 耐え難い苦痛を味わうくらいなら、地位や名誉など必要ない。
 妹にその資格があればよかったのに――。

「君が恨んでいる者は、あの男だけではないな」

 自身が醜い心の持ち主だと認めたくなかったフリジアが過去に思いを巡らせれば、彼女を安心させるように抱きしめたセドリックが耳元で囁く。

(今さら取り繕ったって、なんの意味もない……)

 フリジアは彼の言葉に異を唱えたい気持ちでいっぱいになりながらも、胸の奥底に押し留めていた気持ちを吐露した。

「嘘つきは正直者よりも、偉いのですか……」

 彼女の怒りは、再び大地を脅かす。
 近くでバリバリバリと大きな落雷の音が聞こえてきても、フリジアは動じることなく声を大にして叫ぶ。
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