聖女のいない国に、祝福は訪れない
「私は陛下がいなければ、この世界で生きる意味を見失っているのに……!」

 フリジアが地獄の中にいる間、ニセラは両親の元でたくさんの愛を受けて育っている。

 本来であればフリジアだって、妹の隣で笑っていたはずなのに――自分だけが聖女に選ばれてしまったせいで、彼女はたった一人で苦痛を強いられる羽目になった。

「つらくて苦しいことは、全部私に体験させて……」
「ああ……」
「横からすべてを奪った、あの子が嫌い……!」

 妹が聖女騙らなければ、フリジアはフェドクガだけを恨むだけで済んだ。
 両親だけではなく、ニセラもアーデンフォルカ帝国で暮らす未来もあっただろう。

「ニセラさえいなければ! 私はこれほど恐ろしい思考に苛まれることなどなかった!」

 血の繋がった妹だからこそ守りたいとニセラを想っていた彼女は、二度の裏切りを受けて愛想を尽かした。
 その感情はやがてフェドクガから受けた苦しみと混ざり合い、セドリックを奪われるかもしれないと言う恐怖に怯えたことにより――憎悪へと変化したのだ。
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