聖女のいない国に、祝福は訪れない
「そうやって、あの子に責任転嫁する自分が恐ろしくて……っ」
「生きている資格などないと、自分を卑下するな」

 フリジアは自分が情けないと、声を押し殺しながら泣き出す。
 そんな彼女の叫びを見守っていた彼は、フリジアの手に自らの指先を絡め合うと優しく諭した。

「誰かに嫉妬しない人間などいない」
「ですが……っ。聖女は心も清らかでなければ務まりません……!」
「どうだかな。母上は、君よりよほど嫉妬深く、父上に言い寄る女性達へ口にするのも憚られるような言葉を口にしていたが」

 自分のことでいっぱいいっぱいのフリジアは、先代聖女の肖像画を思い出す。

(あんな可憐な容姿をお持ちの美しい聖女様が、嫉妬深いなど……信じられない……)

 彼女が何度も首を振って否定すれば、セドリックは再び優しい声音でフリジアを慰める。

「そう、心配することはない」
「私は……!」
「醜い心を持つ自身が恐ろしいと苦悩するフリジアを、俺は愛している」

 不安でいっぱいなフリジアに、彼は一番ほしい言葉をくれた。
 彼女の瞳からは涙が止まり、驚愕で見開かれる。
< 177 / 200 >

この作品をシェア

pagetop