聖女のいない国に、祝福は訪れない
「君には、憂いのない人生を歩んでほしい」

 フリジアは信じられなかった。
 自分のことをこれほど思いやってくれる存在がいることを。

「誰にも加害されることなく、民達から愛され――幸せに暮らす未来」

 セドリックは彼女の幸福を一番に考え、望みを叶えようとしている。
 フリジアは彼の愛を疑っていた自分を恥じた。

「そのためには、君を苦しめる人々を始末しなければならない」
「命を……奪うのですか……」
「そうだな。それが一番手っ取り早い」

 フリジアが命を奪う必要はないと口にすれば、彼はやめてくれるだろう。
 だが――生かしておいたせいで、彼女のような被害に合う者が現れないとも限らない。
 フェドクガは聖女だけではなく、皇太子だからと言う理由だけで周りにも暴力を振るっていたからだ。

「ただ……俺一人ですべてを終わらせたところで、フリジアの心は晴れないだろう」
「……私の意見に、耳を傾けてくださるのですか……?」
「当然だ。彼らに迷惑を被っているのは、君なのだから」

 彼女の想像通り、彼はどんな答えを出しても彼女の力になると力強く頷いた。
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