聖女のいない国に、祝福は訪れない
「リエルル公爵令嬢。見せるんだ」

 セドリックが深いため息を溢したあと、彼女の家名を口にした時。
 フリジアの中にはある疑問が浮かぶ。

(彼は私を聖女としてではなく、公爵家の娘として扱ってくれるの……?)

 もしもその考えが当たっていれば。
 必要以上に彼を拒む必要はないと思い直した彼女は自然と手首から手を離し、彼の前へその痣を露出させていた。

「自分でつけた痣ではないな」

 フリジアはコクリと首を縦に振る。
 嘘をついても仕方ないと思ったからだ。

「誰にやられた」

 ただ――続けて紡がれたその問い掛けには、答えられなかった。

(王にやられたと告げて、信じてもらえるの?)

 聖女としてではなく。
 一人の女性として接してくれたことには感謝しているが、信頼できる相手なのかを判断をするには時間が足らなさすぎる。

 青白い顔でフリジアが無言を貫いていれば、意外な人物が助け舟を出してくれた。
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