聖女のいない国に、祝福は訪れない
「私はあなたがいる国に、祝福を齎します」
「ああ。俺だけの聖女。君を傷つけたものには、この剣で捌きを下そう」
「ひぃ!」

 セドリックがついに、腰につけた鞘から剣を引き抜いた。
 腕っぷしには自信があっても、フェドクガは剣の腕はからきし。
 相手が鬼の形相をした悪逆非道の皇帝ともあれば、悲鳴を上げたくもなるだろう。

「愛しき聖女を虐げた国など、存続する理由もありません。滅びてしまえ。何もかも――」

 ――フリジアの呼びかけが合図となり、獣達とセドリックが同時に地を蹴った。

(これから二人は、永遠の苦しみを味わうことになる……)

 彼らは愛する聖女を傷つけた者達から順に、鋭利な牙と剣の餌食にしていく。

「いやぁあ! お願い! 許して!」
「く……っ。貴様如きに……! なぜ私が……!」

 目を背けることは、自身の罪から逃げることだ。

 フリジアはけして、獣達やセドリックが暴れ回る姿からは目を背けなかった。
 彼女の代わりに牙を向いた彼らが傷つくたびに祈りを捧げ、癒やしの力を使う。
 その繰り返し。
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