聖女のいない国に、祝福は訪れない
「私はセドリック様を、愛しています……」

 彼はフリジアにとって命の恩人であり、苦しくてつらい彼女の過去を受け止め、復讐に協力してくれた。
 アーデンフォルカを治める皇帝で、この地で暮らす民から愛されている先代聖女の息子。そして何よりも顔立ちがよく、悪逆非道の皇帝などと呼ばれていたのが嘘のように彼女へ向ける瞳は優しく……。

(好きにならない方がおかしい……)

 初めてフリジアから愛の言葉が返って来たことに、セドリックはとても喜んでいるようだった。
 彼女の頬に触れ、彼は身を屈めたが――。

「がう!」

 ――既のところで、唇同士が触れ合うことはなかった。
 狼が二人の間に割り込んできたからだ。

「どうしたの……?」
「がう! がう~!」

 好戦的な獣はフリジアを守る一番の騎士だ。
 たとえ相手が聖女と思いを通じ合わせた皇帝でも、彼女と唇を触れ合わせるのは許せないらしい。
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