聖女のいない国に、祝福は訪れない
(生き残っても、なんの意味もない……)

 生き地獄が続くのならば、今までと変わらない。

(このまま骨になって朽ち果てるるのが、私の相応しい最期なんだ……)

 悲壮感に打ちひしがれる彼女は気づいていなかった。

 サクリサクリと地面を踏み締め、彼女の元へとマントを翻してやってきた――ある男の影に……。

「なぜここにいる」

 上半身を起こす気力もなく、フリジアは目線だけで声のした方向を確認する。
 そこにいたのは、悪逆皇帝と名高いアーデンフォルカ帝国の皇帝。
 セドリック・アーデンフォルムだった。

「聖女フリジア・リエルル……」

 人間の口から自らの名を聞くのは、何年ぶりだろう。

(私の名前を、覚えていた人がいるなんて……)

 彼女の瞳からは、とうの昔に枯れ果てたたはずの涙が頬を伝って零れ落ちる。

 生まれ故郷で聖女と呼ばれるようになってからは、誰も呼ぶことのない名を聞いてフリジアが突然泣き出したことに驚いたのだろう。
 目を見開いていた男は、険しい表情で彼女の元へと歩み寄り――。
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