聖女のいない国に、祝福は訪れない
「身支度を整え次第、呼んでくれ」
「かしこまりました」

 彼女を水場の上に置かれた椅子の上へ優しく座らせた彼は、そのまま女性にフリジアを預けると、何事もなかったかのようにスタスタと退出してしまった。

「申し遅れてしまいました。私はセヌ・ゼルム。陛下の専属侍女です」
「あ……。お初にお目に掛かります……。私は、聖女……」
「お名前を、お聞かせいただけますか?」
「リエルル公爵家の娘、フリジアです……」
「とても素敵なお名前ですね」

 ――フリジアは自身の名が大好きだ。

(この人……すごく、いい人だ……)

 だから、名を褒めてくれたセヌにすぐ心を許した。

「今後は、リエルル公爵令嬢とお呼びしても……?」
「いえ。名前で、呼んでください……」
「では、フリジア様。これより湯浴みを行います」

 フリジアはセヌの言葉に頷き、ドレスを自らの脱ごうとしたのだが……。
 彼女は当然のように背中のファスナーへ手を掛け、ゆっくり下ろした。
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