聖女のいない国に、祝福は訪れない
「落ち着いてください……。大丈夫ですよ……」
「がるるる……」

 狼はいつまで経っても彼女と距離を取らないセドリックを不満そうに見つめていたが、愛しき聖女に抱きしめられながら美しい毛並みを撫でられると、唸り声を上げたあとに落ち着いた。

「申し訳ございません……」
「いや。気にするな。続きは夜に、仕切り直そう」

 申し訳無さそうに目を伏せたフリジアは、彼から耳元で囁かれて再び頬を赤く染める。

「せ、セドリック様……!」
「冗談ではなく、本気だ。約束を忘れて、先に寝るなよ」
「がう……」

 セドリックが去りゆく姿を見つめていたフリジアに、狼が「さっさと始末しておくべきだった」と言うような呆れを含んだ視線を向ける。
 そんな獣と目を合わせた彼女は、くすくすと声を上げて笑った。

(これが私の、幸せ……)

 たくさんの民から聖女と崇められ、動物達に愛され、セドリックがそばにいる。
 これからはそれが当たり前となり――フリジアはもう二度と、苦悩することはない。

(大好きな人達と一緒なら……。何があっても、大丈夫……)

 彼女に待ち受けるのは、明るい未来だ。

「エル・アルカ・ディーネ。アーデンフォルカに、祝福の光を」

 そうしてすべてを手に入れた神の愛し子は、アーデンフォルカに祝福を与えた――。
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