聖女のいない国に、祝福は訪れない
「あの……。自分で、脱げますから……」
「公爵令嬢のお手を煩わせるわけには参りません。私にお任せください」

 フリジアの美しき白い肌には、至る所に痛々しい痣が刻まれている。
 フェドクガへ抵抗するたび、鞭で叩かれたり暴行を受けたりしたからだ。

(彼女に見せて、大丈夫だろうか……)

 恐ろしい傷を見せて、トラウマを植え付けてしまうかもしれない。
 フリジアが全身に力を込めてじっと黙っていると、ついにその時がやってきた。

「これは……」

 彼女の身体に植え付けられた打撲痕を目にしたセヌは、何か言いたげに言葉を詰まらせる。

 彼女はそれらをしばらく青ざめた表情で見つめていたようだが――ドレスを脱がせた侍女は、無言でフリジアを水場へ誘導した。

(沈黙が痛い……)

 彼女は何か言った方がいいのだろうかと不安になりながら水を浴び、全身の汚れを落とすと脱衣場へ戻る。

「それでは、フリジア様。お召し替えを行いましょう」

 入浴を済ませたフリジアがセヌの手を借り、貴族令嬢が身につけるような着心地のいい紺色のドレスを身に纏う。
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