聖女のいない国に、祝福は訪れない
(この感覚、久しぶり……)

 いつだって真新しいドレスに身を包んだ時、ドキドキワクワクと胸を高鳴らせていた。フリジアはおしゃれが大好きな少女であったからだ。

(聖女になってからは、身なりに気を使えなくなっていたけど……)

 セドリックの元にいれば、このような夢の時間をずっと過ごせるのだろうか?

(でも、私は偽聖女の汚名を着せられた罪人で……。彼にとっては、母国から大金を引き出すための道具でしかない……)

 捕虜は金のなる木として丁重に扱われるのが原則だが、それは相手国と順調に取引が成立した場合だ。
 フェドクガはフリジアの死を望んでいるのだから、金銭を要求されたところで支払いに応じるわけがない。

(身代金が支払われても、困るけど……)

 母国へ戻った所で酷い扱いを受けるか、命を奪われるか。
 そうなるのは目に見えている。
 幸せにフリジアが親元で過ごすことなど叶うわけがない。

(どうか彼が、私に利用価値がないことを気づきませんように……)

 彼女は神に祈りを捧げると、セヌの呼びかけを受けてやってきたセドリックと顔を合わせる。

「見違えたな……」

 彼はフリジアのドレス姿に、目を見張った。
 薄汚れた姿をしていたので、本当に公爵家の娘なのかと疑っていたのかもしれない。

「行くぞ」

 彼に抱きかかえられたフリジアは――再び洋室のベッドへ移動した。
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