聖女のいない国に、祝福は訪れない
「今すぐ腰につけたその剣で、私の首を刎ねてください」

 生きる希望を失っていたフリジアは静かに啜り泣きながら、セドリックへ懇願した。

 流した涙が床に水溜りを作ろうと、誰一人としてフリジアの悲しみに寄り添う人はいない。
 誰もが聖女にかかわるべきではないと、目を逸らした。
 王に命を奪われるのではないかと、怯えていたから。

(私の味方なんて、どこにもいない……)

 フリジアが必要とされているのは、彼女が癒やしの力を持つ聖女だからだ。
 リエルル公爵家のフリジアを慈しみ、愛を注ぎ、一人の人間として接してくれたのは両親だけだった。

(大切な人を、巻き込むわけにはいかない……)

 生家には戻りたかったが、フリジアが公爵家に逃げ込んだことを知られればフェドクガが両親の命を奪うかもしれない。

 崖下に飛び込んだのは失敗だったが――。

 フリジアの目の前には、歴戦の戦士達を屠ってきた皇帝がいる。

(これでやっと、楽になれる……)

 そう思ったのに、いつまで経っても彼の腰元から剣が引き抜かれることはなかった。
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