聖女のいない国に、祝福は訪れない
(神だけではなく彼でさえも、私が生き続けることを願うのね……)

 フリジアはこの場で命を終えることを諦めた。
 彼にその気がなければ、どれほど泣き叫んだところでその願いが叶うはずなどないからだ。

「生きる意味を見い出せないのであれば、俺が与えてやる」

 彼はフリジアの震える身体を優しく抱きとめると、耳元で囁く。

「この国に幸福を齎した分だけ、俺が君を愛そう」

 フリジアは愛情がほしいわけではなかった。

 自分一人の犠牲により、たくさんの幸福が守られる。
 その歪んだシステムに耐え切れなかっただけなのだ。

 ありがとうの言葉ではなくて。
 聖女ではなくても必要として、支えてくれる人がいれば、それだけでよかったのに――。

「私には、もう……。聖女として生き続ける資格がありません……」
「ならば、辞めたらいい」
「自らを犠牲にして、民達へ幸福を齎すことなどできないのです……」
「それで構わん。聖女がいるだけで、その地は豊かな暮らしが約束されるのだから」

 弱音を吐くフリジアに寄り添った彼は、一つ一つ丁寧にフリジアの不安を取り除いていく。
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