聖女のいない国に、祝福は訪れない
「癒やしの力だけでは、ないのですか……」
「ああ。ありとあらゆる災厄から国を護る。それが聖女として生まれた愛し子の才能だ」
「では、私は一体……なんのために……」

 セドリックが口にした内容は、フリジアが知らないことばかりだった。

『聖女が不幸になればなるほど、民達が幸福になれるのだ!』

 事実確認をすることなく、フェドクガの言葉を黙って受け入れた彼女が悪かったのだろう。

「熱心に祈りを捧げれば、癒やしの有効範囲が広がる。それだけだ」

 フリジアは今まで七年もの間聖女として過ごしたのに。
 なんの知識もなく皇太子の言われるがままに祈りを捧げる、都合のいい道具であったことに気づき、自身を恥じた。

「今までよりも、よりよい暮らしを約束しよう」

 セドリックは呆然とするフリジアへ、ゆっくりと手を差し伸べる。

(この手を取れば、母国を捨てることになる……)

 生まれ故郷の皇太子に酷い目に合わされてはいるが、あの地にはまだ両親が暮らしている。
 彼はきっと、フリジアがこの手を取れば母国を滅ぼそうとするだろう。
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