聖女のいない国に、祝福は訪れない
(彼にとって、自国よりも発展したあの国は……目障りだから……)

 セドリックは悪逆非道と名高い皇帝だ。
 素直にこの彼の提案を受け入れたところで、裏切られる可能性が高い。

(陛下はきっと、悪い人ではない……)

 だが――フリジアにとって彼との出会いは、神が与えてくれた最後のチャンスなのだ。

(この命は本来であれば、すでに消えているはずだった)

 偶然あの場所へセドリックが足を運び、見つけてくれたからこそ助かったのだから。
 彼女にとって彼が、どんな悪評が巷で流れていようが命の恩人であることには変わりない。

(もう少しだけ、生きてみようかな……)

 今までよりも酷い目に合うようなら、今度こそ自ら命を捨て去ればいいだけのことだ。

「わかり、ました……」

 フリジアは剣を握りすぎて血豆が潰れ、あまり触り心地がいいとは言えない彼の大きな手に恐る恐る触れ――この国で暮らす決意をした。
< 29 / 40 >

この作品をシェア

pagetop