聖女のいない国に、祝福は訪れない
「リエルル公爵令嬢」

 王よりも聖女に対する知識があるセドリックは、フリジアを聖女としてではなく公爵令嬢として扱う。

「顔色は、よくなったようだが……」
「はい……。陛下のお心遣いに、感謝いたします……」

 痛いことも、苦しいこともない生活。
 暖かな部屋、おいしい食事。
 きらびやかな衣装――使用人達に告げて彼がフリジアのために用意したものは、最高級だった。

(私には、不相応なのに……)

 彼女は敵国の捕虜だ。
 聖女として生まれただけでこれほど贅沢な暮らしをさせてもらえるなどあり得ないと、セドリックが姿を見せるといつもビクビクしてしまう。

(いつか必ず、この生活には終わりが来る)

 誰にも加害されずに生き続ける幸せを体感してしまったら。
 もう二度と耐え難い苦痛を味わい続ける、地獄のような生活は耐えられない。

(この生活を、あたりまえの日常として受け入れてはいけない……)

 必死に自分へ言い聞かせていたフリジアは、そう願いすぎて不安になったのだろう。
 思わず彼に、問い掛けてしまった。
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