聖女のいない国に、祝福は訪れない
(それが知りたかったのに……)

 唇を噛み締め思い悩むフリジアを眺めていた彼は、悪逆非道の皇帝と呼ばれていたとは思えぬほど優しい瞳で、彼女を見つめる。

「そうだな。不安を取り除くには、理由が必要だ」

 フリジアはそんな彼の姿から、目が離せなかった。
 彼女を受け入れ慈しんでくれる人は、セドリックが初めてだったから。

「俺は君に、好意を抱いている」

 ――彼の言葉を受け止めた彼女は、呆然とセドリックを見上げて固まる。

(陛下が、私を好き……?)

 それが恋愛感情なのか友情なのかすらも、フリジアにはどうでもよかった。
 二人は言葉を交わし合い、まだ二十四時間も経っていないのだから。

「愛しているから、ともに生きたいと願う。それでは理由にならないか」
「いいえ……」

 恋や愛と言った感情が移ろいゆくものであると知っているフリジアは、彼の言葉を馬鹿正直に受け止めるつもりはない。
 話半分にしか聞いていなかった。
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