聖女のいない国に、祝福は訪れない
「陛下の手を煩わせてしまい、大変申し訳ございません……。私のような卑しい人間が、陛下の指先に自らの指を絡めるなど……」
「リエルル公爵令嬢」
「……はい」
「自身を卑下するな」

 顔を真っ赤にしたかと思えば、すぐ真っ青になるのは、セドリックを怒らせてしまったかもしれないと不安になったからだろう。
 言葉を詰まらせたフリジアの姿を目にした彼は、そんな顔をしてほしかったわけではないと弁解した。

「先日、説明しただろう。君は誰よりも尊ばれるべき、聖女であると」
「……はい」
「普通にしてくれ。俺が皇帝だからと言って、必要以上に敬う必要などない」

 セドリックからそう言われても、相手は由緒正しい血を引く王族なのだ。
 この場にいたのが天真爛漫まで非常識な妹ならともかく、引っ込み思案で控えめな性格をしているフリジアは、小さく頷くことしかできなかった。

(陛下の言葉を真に受けて……。周りから不敬と白い目で見られるのだけは避けなければ……)

 もう二度と傷つきたくないと怯える彼女は、今すぐ彼の要望通りの態度に変化させるのは難しいだろうと考えながら、じっと黙り込む。
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