聖女のいない国に、祝福は訪れない
『やっと見つけたぞ、聖女!』

 おおらかで頼りがいのある公爵。
 いつだって優しい母。
 わがままで天真爛漫な双子の妹の後ろに隠れて育った姉のフリジアは、ある日突然皇太子からそう叫ばれた。

『ち、違います……。私は聖女なんかじゃありません……』
『どうしてフリジアだけが聖女なんですかぁ! ニセラだって、一緒に生まれたんですから! その資格があるに決まってますぅ!』
『黙れ!』

 フリジアは必死に否定し妹と引き離されることを拒んだが、皇太子の一喝に怯んだ隙を狙われ、あっと言う間に家族と引き離された。

『今日から貴様は聖女だ』

 両親から名付けられた名を奪われたフリジアは、十歳の誕生日から聖女と役職名で呼ばれ続ける生活を送ることになってしまった。

『聖女様!』

 聖女がどれほど祈りを捧げても、幸福になるのはその地に住まう民だけだった。

『どうか我々をお救いください!』
『傷を癒やせ!』
『病気を治して!』

 傷ついた民を救うことこそが使命だと指示された彼女は、寝る間を惜しんで必死に聖女としての役目を全うした。
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