聖女のいない国に、祝福は訪れない
「俺は君を、守りたいと思っている。その気持ちに、迷いはない」
「それは……この国を、発展させるためですよね……」
「そうだな」

 セドリックはフリジアが納得するまで彼女をどれほど愛し、守りたい存在であるかを語りたいようだが、彼女が彼を信頼できない限り平行線だ。

「聖女はこの世界でたった一人だけ。同時には存在できない」

 だからこそ、セドリックはフリジアの心を解きほぐすために切り口を変えることにした。

「この世界の人々は、聖女を奪い合う。自らが住まう領地で、豊かで何不自由ない暮らしを実現するために」
「……はい」
「俺は戦争をする理由がなければ、必要以上に血を流すべきではないと思っている」

 聖女の加護がなければ人が住めないような荒れ地にさえならなければ、セドリックは剣を振るう理由がないと告げた。

「俺はこの地に住まう民が少しでもよりよい暮らしを営めるように、剣を振るう」

 彼は敵を屠るのに愉悦を感じるような人ではないのだと、フリジアへ遠回しに伝える。
< 42 / 52 >

この作品をシェア

pagetop