聖女のいない国に、祝福は訪れない
(この場を凌ぐための嘘ではない……)

 感情を隠されたらいくら聖女であれどもその真意を探ることは難しいが、それが善か悪かくらいはフリジアでも察知できた。

「君がここに永住してくれるといいのだが。そうすれば、俺はもう、他国の民を傷つける必要はない」

 セドリックの瞳は、真剣そのものだ。

(彼は悪逆非道な皇帝と呼ばれることに、疲れたのかもしれない……)

 彼はフリジアにとって命の恩人だった。
 セドリックが剣を振るうのをやめたいと語るのであれば、力になるべきだ。

「本当の聖女では、ないかもしれませんよ……」
「それはないな」
「なぜ、そう言い切れるのですか……」
「リリエル公爵令嬢が本物の聖女でなければ、ムガルデン王国はとっくの昔に滅びていただろう」

 だが、フリジアの警戒心は簡単に解けることはない。
 彼女は何度もセドリックの語る内容を反芻し、なぜそこまで自身を本物だと言い切るのかを考えていた。

「それに、君の心が揺らぐと――天候が不安定になる」
「私の……?」

 フリジアは彼に促され、窓の外をちらりと覗く。
 彼と会話をする前は晴天だったのに――いつの間にか、土砂降りの雨が降っていた。
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