聖女のいない国に、祝福は訪れない
「彼らは聖女がいる生活に慣れ親しみ過ぎて、その有難みをまったく理解していない」

 フリジアの置かれていた状況から目を背けることなく受け入れた彼は、どこか遠くを見つめながら告げる。

「聖女は時に王族よりも尊重され、慈しまれるべきなのに……」

 セドリックはフリジアの長い髪を梳く。
 彼女を見つめるその瞳は揺れていた。

「どうしてそこまで、私によくしてくださるのですか……」
「聖女には優しくせよ、と。幼い頃から母に言い聞かせられて育ってきた」
「お母様から……」

 厶ガルデン王国では、聖女とは自らの傷を癒やすための緊急治療薬であり、崇め奉る象徴ではない。

 癒やしの力によって救った民達が後々フリジアに感謝を伝えることはあっても、信仰心はそれほど高くなさそうだった。

「どんな方だったのですか」
「――先代の聖女だった」

 聖女はこの世界でたった一人しか存在を許されない。

 彼の母が先代であったのならば――フリジアが生まれてしまったから、セドリックの母親は命を落としてしまったのだろう。
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