聖女のいない国に、祝福は訪れない
「陛下のお心遣い、謹んでお受けいたします」

 身体的な痛みを訴えれば、彼はきっとフリジアの傷を癒そうと手段を講じてくれるだろう。
 それがわかっているからこそ。
 このよくわからない胸の痛みを、セドリックに訴えかける気にはならなかった。

(苦しくなんて、ない。きっと、気の所為に決まっている。ムガルデン王国で暮らしていた時より、待遇はよくなったのだから……)

 彼から向けられる優しさが返ってく苦しいのだと口にすれば、罰が当たる。

(ごめんなさい……)

 一度満たされてしまえば、あれがほしい。
 これがほしいと高望みしてしまう姿は、大嫌いな妹の立ち振る舞いそのものだ。

(私は絶対、あの子のようにはならない……)

 フリジアは自身を律すると、添い寝の許可を得てうれしそうに口元を緩めたセドリックから、手を離した。
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