聖女のいない国に、祝福は訪れない
先代聖女と皇帝の想い(セドリック)
(母の件は、話すべきではなかった)
セドリックがそう後悔をしたのは、フリジアにすべてを話し終えたあとだった。
彼に心を許し始めていたフリジアのシャッターが、ピシャリと音を立てて勢いよく閉まったような感覚に陥ったセドリックは、眉を顰めて思い悩む。
(フリジア……)
彼は隣で眠る愛しき聖女の寝顔をじっと見つめながら、現在の状況を回想する。
ムガルデン王国では彼女の妹、ニセラこそが真の聖女であったと声高らかに宣言したそうだ。
本来であれば聖女の取り違えなど起きるはずがないのだが、双生児なら間違えるのも仕方がないと民達の半数は納得し、新たな聖女の誕生を喜んでいる。
だが、真の聖女を名乗る双子の妹が現れてから、ムガルデン王国はどうにもおかしい。
作物が枯れ、長雨が続いたかと思えば、日照りの日が続く。
異常気象に見舞われているようなのだ。
(聖女が命を終えると神の加護が薄れ、二十年間に渡って荒廃していくが……)
聖女としてこの世に生を受けたフリジアは、アーデンフォルカ帝国に逃げ延び生き長らえている。
この状態でなぜ、ムガルデン王国の天候が荒れているのかがわからず、セドリックは眉を顰めた。