聖女のいない国に、祝福は訪れない
『ああ、聖女様! 感謝いたします……!』
『さすがは神の寵愛を受けし聖女様だ!』

 危機に瀕していた人々はフリジアを聖女と崇め、奉り、何度も礼を告げ神格化したが――彼女に恩を返そうと手を差し伸べる人は現れない。

 民に尽くした。
 姿の見えぬ神を愛した。
 皇太子の言うことには素直に従った。

 けれどフリジアの待遇は、どんどん悪くなるばかり。

 食事が三日に一度になった。
 巡礼と称して旅をしなくなった。

『私の仕事を、奪わないでください……』

 聖女として力を振るうことは、フリジアにとって生きる意味だ。

(利用価値のない人形は、捨てられるのが定め……)

 その意味を奪われては堪らないと、フリジアは皇太子に直談判をした。

『ほう。己の利用価値を理解している聖女と出会うのは初めてだ』

 すると、フェドクガは彼女にとんでもない提案をする。

『私の婚約者となれ』

 婚約とは、愛し合う男女が行うものだ。
 フリジアはフェドクガを愛していないのだから、その言葉を受け入れ婚約を成立させるなど、本来ならばあり得ないこと。
< 5 / 28 >

この作品をシェア

pagetop