聖女のいない国に、祝福は訪れない
(これでは、どちらが悪逆非道なのかわかったものではないな……)

 戦地では容赦なく命を刈り取るセドリックも、身内に対して剣を振るい不必要な血を流すフェドクガのやり方にドン引きしていた。

(あの国の領土はいずれ、俺のものにするつもりだが……)

 セドリックがムガルデン王国を手に入れたあと。
 その地で暮らす民達が聖女の見分けがつかないようでは困る。

(計画を早めたいが……)

 異常気象の最中に戦争を仕掛ければ、味方に甚大な被害が及びかねない。

(フリジアが心の中でムガルデン王国に帰りたい。民を守りたいと願っているケースが一番最悪だ)

 あの国をどうにかしたいと願うならば、フリジアの信頼を勝ち取り――アーデンフォルカ帝国の安寧を願ってもらえるまでに。
 この帝国を好きになってもらわなければ。

 そう考えていたセドリックは、どうやって彼女を喜ばせればいいのかと頭を悩ませていたのだが――。

『陛下! どうか、聖女様をお助けください……!』

 渦中の相手が地面に這い蹲り、セドリックの目の前で懇願する姿を目にした彼は、難しい顔でムガルデンの人々を見下していた。
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