聖女のいない国に、祝福は訪れない
「フリジア……」

 先代の聖女が亡くなってから。
 民のためにとセドリックは、数え切れないほど剣を振るって来た。

 かつて神の加護を受けたこの国に再び安寧を齎す為だけに生きてきた彼にとって、フリジアの四肢に刻まれてた手枷の痣を見るたびに母から叱咤されているような気分になってしまう。

『セドリック。新たなる聖女が誕生したら、あなたが彼女を守るのよ』

 母親が死に際、何を思ってセドリックにそう言い残したのか。
 彼はずっと理解できずにいたが――今ならよくわかる。
 次代の聖女が苦しみの中に閉じ込められることを、あの段階で予期していたのだと。

「俺は、君を……」

 守りたいと言う気持ちはいつの間にか、恋慕へと変化した。

(あとはフリジアが、俺に好意を抱いてくれるか……)

 どれほど彼が聖女を愛しく思っていたとしても。
 彼女にその気持ちがなければ意味はない。

(こればかりは、祈るしかないな……)

 セドリックは手首の痣に口づける。
 フリジアと離れ離れにならないようにきつく抱きしめると、ゆっくりと目を閉じ眠りについた。
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