聖女のいない国に、祝福は訪れない
民から慕われる皇帝
「この国で暮らす、民の様子が見たいです……」

 聖女は自らが根ざす土地に、豊かな繁栄を齎す存在だ。
 この国で暮らす人々の状況を確認し、この地で暮らしても問題ないかを見極める必要がある。

(私利私欲に溺れ、聖女を虐げる人の力になりたくないから……)

 まだ幼いフリジアはわけもわからぬままに聖女としての力を見出され、フェドクガの言われるがままに癒やしの力を使った。
 ムガルデン王国ではフェドクガの傀儡として生きることしかできなかったが……。

「理由を聞いても構わないか」
「はい……」

 本来は自らの意志を強く主張し、物事を見定め、自身の住まう地で民達が不幸にならぬよう、率先して行動しなければならない。

(フェドクガの聖女に対する扱いが間違っていたのだと、教えてくださった陛下にならば……)

 彼に心を開き始めたフリジアは、他のことにも目を向ける余裕ができた。

「この地が信頼のおける場所か、自身の目で確かめたいのです……」

 彼女がまっすぐな視線をセドリックに向ければ、彼が難しい顔をしていることに気づく。
 フリジアはその理由を探るために、彼の言葉に耳を傾けた。
< 54 / 64 >

この作品をシェア

pagetop