聖女のいない国に、祝福は訪れない
「我が帝国には、ムガルデン王国の移民が多く暮らしている。君が街を彷徨いていれば、聖女だと騒ぎになりかねない」

 セドリックはどうやら、フリジアが聖女だと知る民達に姿を見られることを恐れているようだ。

(そんなの、気にする必要はないのに……)

 彼女は思わず、彼を説得するために言葉を紡ぐ。

「変装をすれば……」
「目の前で病に苦しむ人がいれば、見て見ぬ振りなどできないだろう」

 心優しい聖女であれば、自らの正体が露呈することも恐れず癒やしの力を使うに決まっている。
 そう遠回しに言われたフリジアは、反論できずに唇を噛み締めた。

「まだ君の身体は、全快とは言えない」

 ここでどうしてもと頼み込めばいいだけなのに。
 彼の意志を捻じ曲げてまで妹のように自分の意見を言えない。
 それが悔しくて。
 暗い顔で押し黙る姿を目にしたセドリックは、彼女に諭した。

「ひとまず、王城内だけにしておかないか」
「……この部屋を出ても、いいのですか……?」
「構わない。ただし、王城の外へは出ないでくれ」
「その約束を守れば、自由に動き回れるのでしょうか」
「ああ。ずっとこの部屋に閉じ込めていて、悪かった」

 フリジアは驚きで目を見開いたあと、嬉しそうに瞳を細める。
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