聖女のいない国に、祝福は訪れない
「婚約者様!」
「陛下より寵愛を受けし姫君!」
「麗しき公爵家の花にお会いできて、光栄です!」

 彼らはフリジアの姿を目にすると、仕事を中断して満面の笑みを浮かべて話しかけてくる。
 王城で働く人々にとって、彼女は聖女ではなくセドリックのいい人なのだと言う。

『あれが聖女か……』
『殿下の言いなりになっているとか……』
『あれほどの力をお持ちなのに、自由を奪われるなど……』

 ムガルデン王国では、いつだって憐れみの言葉しか投げかけられなかったフリジアにとって、この反応は新鮮であった。

(待遇が……全然違う……)

 最初のうちはセドリックやセヌ以外に話しかけられることが恐ろしくて怯えていたフリジアも、彼らに敵意がないことを知れば段々と顔色がよくなってくる。

(アーデンフォルカ帝国には、陛下を愛する人達が集まっているんだ……)

 ムガルデン王国の王城は、人の入れ替わりが激しかった。
 フリジアが聖女として暮らすようになってから、逃げ出すまで。
 ずっとあそこで働き続けていたのは、フェドクガの側近くらいなものだったと記憶している。
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