聖女のいない国に、祝福は訪れない
『殿下は恐ろしい方だ……』

 フリジアに事実を知られるわけには行かないと恐れたからだろう。
 口を滑らせた者達は真っ先に処刑された。
 彼女は言葉を交わすことすら許されず、それを見ていることしかできなかった自分の姿を思い浮かべ、目を伏せる。

「陛下は、どんな方ですか……?」

 フリジアの疑問にも、王城で働く人々は屈託のない笑顔とともに答えを紡ぎ出す。

「アーデンフォルカ帝国の宝です!」

 あるものはすべてを投げ売ってでも守るべき存在だと語り。

「敵国にとっては鬼や悪魔と呼ばれることも多いですが、味方であればこれほど心強いことはないかと!」

 またあるものは、敵対していなくて本当によかったと胸を撫で下ろした。

(民からの信頼は厚い……)

 王城の外に出て下々の暮らしを確認するまでもなく。
 彼女は誰も彼もが心の底からセドリックを信頼し、愛しているのだと知った。

(他国からは、悪逆非道の皇帝と呼ばれていたのに……)

 どちらがセドリックの本当なのだろうかとぼんやり考える。
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