聖女のいない国に、祝福は訪れない
(戦地での陛下と、アーデンフォルカで暮らす彼は……。二つの顔を、使い分けているのかもしれない……)

 噂話だけを頼りにすれば悪いイメージしか思い浮かべられないが、見方を変えればポジティブに考えられないこともなかった。

(敵には厳しく、身内には甘いのかも……)

 自らの治める帝国で暮らす民を思いやりすぎて、領土拡大を目論む人々から蹂躪されぬように反旗を翻した結果、やりすぎてしまったと言うのが噂の真実なのだろう。

(敵対していれば畏怖すべき存在だけど、懐に入り込んでしまえば恐れるような人ではない……)

 セドリックがどう言う人物であるかを図らずとも知ってしまった彼女は、必要以上に彼と距離を取っていた先程までの行いを恥じた。

(私の前で見せる優しさが、本物なら……)

 遠ざけるのではなく、自ら歩み寄るべきだ。

 ――フリジアは早急に自身を庇護してくれる味方を作る必要があった。

 セヌは彼女の侍女として甲斐甲斐しく世話をしてくれるが、いざと言う時に守ってもらえる保証はない。
 けれどセドリックはこの国を統べる皇帝であり、最高権力者だ。

 他国の王子であるフェドクガがフリジアの生存を知り、彼女を求めたとしても――彼ならきっと、フリジアを守ってくれる。

(ニセラがいる限り、私を欲しがるようには思えないけど……)

 万が一に備えて行動するのは、悪いことではない。
 そう結論づけたフリジアは、セドリックを信頼しようと決めた。
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