聖女のいない国に、祝福は訪れない
 けれど彼はフリジアにとって、尊重しなければならない民の一人だ。

(聖女の役目は、民の幸せを第一に考えること……)

 見返りを求めてはいけない。

 自らの幸せを願った所で誰も幸福を齎してくれないならば、誰と婚約したとしても同じだ。

(望まれたならば、応えるしかないのだから)

 聖女に拒否権はない。

 フリジアがフェドクガをどう思っていようが、彼女の願いが叶えられることがないのでれば――抗うことを辞めたほうが、楽になれる。

『その申し出、謹んでお受けいたします』

 それが悲劇の始まりであることに気づかずに。
 彼女はフェドクガとの婚約を了承してしまった。

 それから先は、坂道から転がり落ちるかのように。
 フリジアは聖女としてではなく、皇太子の婚約者としての立ち振る舞いを期待されるようになった。

(私は好きで、婚約者になったわけではないのに……)

 聖女として困っている人々に感謝される生活のほうが、よほどマシだ。
 フリジアは少しだけ、婚約者の命令に逆らうと決めた。
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