聖女のいない国に、祝福は訪れない
「随分と、顔色がよくなりましたね」

 セヌから指摘されたフリジアは、口元を緩めて窓の外を見つめながら告げる。

「陛下のおかげかも、しれません……」

 外は雲ひとつない晴天で、土の上に敷き詰められた石畳に照り返された日差しが少し暑さを感じるくらいだ。

 フリジアは王城の外へ出ることを禁じられているが、中庭や裏庭への出入りは許されていた。
 気分転換に窓の施錠を解除した彼女は、涼しい風が長い髪を撫でる感覚に目を細めながら、ポツリと呟く。

「自ら命を終える選択をしなくて、本当によかった……」
「フリジア様……」

 セヌが何かを言いかけた時だった。
 窓の外から風に乗り、男性達の怒声と女性の叫び声が聞こえてきたのは。

「陛下を呼べ!」
「何事ですか!」
「大変だ! フラレール帰りの騎士達が、伝染病に罹患した!」

 その言葉を耳にしたフリジアは、考えるまでもなく身体を動かしていた。

「フリジア様!?」

 彼女に与えられた部屋は一階であったことが幸いし、フリジアは窓から勢いよく身を乗り出すと、裸足のまま外へ出た。
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