聖女のいない国に、祝福は訪れない
 まだ全速力で走れるほど体力は残っていない。
 時折ふらつきながらも、セヌの後方で驚く声を無視して騒ぎの方向を目指した。

「君は下級騎士か? 上級騎士以外が陛下へお会いするには、事前にさまざまな手続きが……」
「フラレールへ出立した騎士達は全員、手練だぞ! あいつらを見殺しにするって言うのか!」
「流行り病に治療法はない。残念だが……」
「そもそもどこで倒れたんだ。王都の中なら、大変なことになる。早く……」

 声を荒げる若い男性を諌めようと、フリジアも何度か会話をしたことがある王城勤務の騎士達が交渉を続けているようだが、あまり芳しくないようだ。

(勝手なことをしたら、陛下に怒られるかもしれない……)

 フリジアの力が必要になったとしても、彼女は王城の外へ出られない。
 すぐに来てくれと言われても、断るしかないのだ。
 そんな状況で口を挟むのは憚られたが――見てみぬふりなど、心優しき聖女にはできなかった。

「――あの……」

 フリジアが控えめに声をかければ、全員の視線が彼女へ向けられる。

 ビクリと両肩を震え上がるほど驚いてしまい、視線をすぐに逸した女性が誰か知った騎士達は――フリジアを指差して告げた。
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