聖女のいない国に、祝福は訪れない
「陛下にお任せいたしましょう!」
「――いいえ。彼は私の命を救ってくださった恩人ですから……。民が病に苦しんでいるのであれば、この手で治療するべきです」
「しかし……!」

 突如侍女と言い争いを始めたフリジアに、何がどうなっているのかと困惑する人々。
 彼女の正体が露呈するのも時間の問題になりかけた瞬間――その不穏な空気を切り裂く重苦しい足音が聞こえてきた。

「何事だ」

 そこに現れたのは黒いマントを翻し、騎士達を従えたセドリックだ。
 彼は近くにいた人々に聞き取り調査を行うと、即座に状況を把握する。

「リエルル公爵令嬢。君はセヌとともに、部屋へ戻れ」
「陛下のお言葉には、従えません……」

 フリジアはセドリックの命令にも反旗を翻す。

 いくら聖女と言えども、皇帝の言葉は絶対だ。
 首を振って拒否した彼女の姿を、青ざめた表情で見つめる騎士達が印象的だった。

「外へ出るのは、まだ早い。あと五か月は待ってくれ」
「その間、流行り病のせいでどれほど尊い命が失われるとお思いですか」
「……俺がなんとかする」
「聖女の力でしか、どうにもならない病を……?」

 どうにかできるならやってみろと、フリジアが彼に向かって凄む。
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