聖女のいない国に、祝福は訪れない
 これほど強い意志を持って彼女から睨みつけられるなど思いもしなかったのだろう。
 セドリックは唇を噛み締めながら、愛しき人の頭を撫でた。

「君がその力を使えば、瞬く間に噂が広がる」
「承知の上です……」
「また、苦しい思いをするぞ」
「……私はもう、フェドクガ・ムガデンの操り人形ではありません……」

 フリジアは聖女とは思えぬほど瞳に薄暗い闇を宿らせると、か細い声でセドリックに言葉を重ねた。

「私は私の意志で、この国に住まう尊き命を助けたい……。そう、思いました……」

 彼の許可が得られなければ、フリジアは一人でも現場へ向かうつもりだった。

(これで受け入れてもらえなければ、私を好きだと言ったじゃないですかと迫ろう……)

 彼女が次なる一手を頭の中で思い浮かべていれば、セドリックが深いため息を溢したことに気づく。

 フリジアが不安そうに彼を見つめれば、唇を噛み締めていたセドリックが彼女に意思確認を始めた。
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