聖女のいない国に、祝福は訪れない
「自らの身を危険に晒したとしても、構わないと?」
「……はい」
「その決意は硬いのだな」
「絶対に、譲れません……」

 こうしてフリジアとセドリックが言い争っている間にも、病に犯された者が苦しんでいるのだ。
 そんな姿を想像した彼女は、瞳を潤ませ彼に懇願した。

「――癒やしの力を使う、許可をください……。病に苦しむ人々を、救いたいのです……」

 セドリックは長い間、じっと黙っていた。

 畏怖、驚き、不快感、期待――。

 この場にいる誰もが懇願するフリジアにあまりいいとは言えない視線を投げかけていることに気づいた彼女は、瞳を閉じてその感情から目を背けた。

「いいだろう」

 熟考したセドリックはフリジアを抱き上げると、最初に危機を知らせた青年へ声を掛けた。

「これより俺とリエルル公爵令嬢が現場へ向かい、伝染病を根絶させる」
「ほ、本当か!?」
「案内しろ」
「わかった!」

 皇帝自らの婚約者を連れて伝染病の蔓延している地に向かうなど、どうかしている。
 王城の人々は彼を止めようとしたが、セドリックの決めたことだ。
 誰にも止める権利などなく、フリジアは彼に抱きかかえられるがまま、初めて王城の外へ出た。
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