聖女のいない国に、祝福は訪れない
伝染病を治す、アーデンフォルカの聖女
 流行り病が伝染した騎士達が集まるバンガローは、戦場だった。
 至る所で呻き声が聞こえてくる。

 苦しそうな声に思わず耳を塞ぎそうになったフリジアは、まずはセドリックの安全を確保するため、抱きかかえるのを止めるように伝えた。

「陛下。離してください……」
「一人は危険だ。聖女に害をなす呪いが掛けられているかもしれない」
「流行り病に罹ったら……」
「俺には母上の加護がある。聖女が罹患するようなレベルでなければ、問題はない」

 癒やしの力は遺伝性ではない。
 セドリックが先代の聖女の息子であったとしても、彼は神の加護を受けていないはずだが――。

(神の愛し子と人間の間にできた息子……。神様が特別に、目を掛けてくださっている……?)

 そんなことが本当にあるのだろうかと不思議に思いながら。フリジアは渋々重病患者がまとめて収容されたバンガローに顔を出す。

(伝染病は、重症者の初期治療が最重要……)

 誰か一人でも命を落とせば悲しみが伝染し、病はより強い呪いへと変化していく。
 これは不治の病ではなく、治せるものだと人々へ広く拡散することも重要だった。
< 66 / 80 >

この作品をシェア

pagetop