聖女のいない国に、祝福は訪れない
 だからこそ聖女は、癒やしの力を使う際に少しだけ大袈裟なパフォーマンスをする。

「無理はするな」
「……はい」

 セドリックに送り出されたフリジアは地上へ降り立つと、苦悶の表情を浮かべる人々に安寧を齎すために祈りを捧げた。

「これより神の愛し子である聖女が皆様の身体を蝕む病を、退けて差し上げます……」

 胸元で両手を組んだフリジアは、目を瞑った。
 アーデンフォルカ帝国の民達にいい印象を植え付けるため、頭の中でイメージする。

「エル・アルカ・ディーネ。アーデンフォルカ帝国に、祝福の光を」

 病に苦しむ民達へ、癒やしの光が降り注ぐ光景を。

 ――すると、変化はすぐに訪れた。
 フリジアが両目を開いた瞬間、テントの中にキラキラと眩い光が満ち溢れる。

「この力は……」
「聖女様だ!」

 先程まで苦悶の表情を浮かべていた騎士達がベッドから起きあたり、みるみるうちに快方へと向かっていく。

 まるで魔法のように苦痛が和らいだことに驚いた誰かが聖女と口にしたせいだろうか。あっと言う間にテントの中はお祭り騒ぎになった。
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