聖女のいない国に、祝福は訪れない
 男性の表情を訝しげに見つめていた彼女は、何を言われても心を揺れ動かさないように気をつけなければと唇を噛みしめる。
 しかし騎士の口から紡がれた言葉は、想像もつかないもので――。

「陛下の寵愛を受けし婚約者様は、すでに五度も癒やしの力をお使いになったとか……!」
「体調になんの問題もない我々に祈りを捧げた結果、婚約者様がお倒れになったらと思うと……!」
「我々は気が気ではないのです!」
「先代の聖女様も、大丈夫だと我々に微笑んでくださいましたが……。体調不良をひた隠しになされていました!」
「もう二度と、あのような悲劇を起こすわけには参りません……!」

 ブルブルと震えている騎士は、どうやら先代の聖女が癒やしの力を使った直後に倒れた瞬間を目にしているらしい。
 自分達のせいでフリジアが寝込むのではないかと怯えているようだ。

(……主の周りには、似たような人が集まると、よく言うけれど……)

 この国は心優しい人々が助け合い、手を取り合って生きているのだろう。
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