聖女のいない国に、祝福は訪れない
(周りを出し抜き、自分一人だけが利益を得ようと画策しているムガルデン王国とは、大違い……)

 母国の国民達は、フェドクガに似て自己中心的なもの達が多く存在した。

『身分の高いものから治療するべきだ!』

 重症患者よりも、軽症で身分の高いものを先に治療するべきだと怒鳴りつけられた時はそうするしかなかったが――。

「騎士の皆様によるお心遣い、感謝いたします」

 セドリックのおかげでそれが間違っていたことを再確認した彼女は、怯える騎士達に優しく微笑んだ。

「私は大丈夫です」
「あぁ……。やはりあなた様は……」

 目を閉じ癒やしの力を抗うことなく受け入れると決めた騎士達へ、フリジアが祈りを捧げる。

「身体が軽い……!」
「今なら百人斬りも夢じゃないぞ!」
「二十年ぶりに、アーデンフォルカ帝国へ聖女様が舞い降りてくださった……!」

 この場にいた誰もがアーデンフォルカ帝国へ再び聖女がやってきたと喜んでいたが、歓喜の声は長く続かなかった。

(あれ……? なんだか、力が……)

 全身から力が抜け、よろよろとその場に倒れ込んでしまったからだ。

「だから、無理をするなと言ったんだ」

 既のところでセドリックが彼女を抱き止めたため、地面に頭をぶつけることはなかったが……。

(迷惑をかけるつもりは、なかったのに……)

 彼に対する謝罪は言葉にならない。
 フリジアは癒やしの力を使い続けたせいで、意識を失った。
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